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保育士などを経験した35歳男性が未経験で建設派遣会社に入り、収入を2倍超に伸ばして結婚と住宅購入を実現した。
「マッチングアプリに年収を堂々と書けるようになった」――。そう語るのは、低賃金に悩み、保育士やブライダル業界を経て未経験のまま「建設派遣」の世界に飛び込んだ戸井口一矢氏(35)だ。入社から数年で年収は保育士時代の2倍超に跳ね上がり、アプリで出会った女性と結婚、念願の注文住宅も手に入れた。
建設業界を襲う空前の人手不足を背景に、いま異業種からの転職者が続々と集まる「建設派遣バブル」の最前線とは。日経プレミアシリーズの新刊『 ブルーカラー年収1000万円時代 』より一部抜粋してお届けする。稼げる業界を狙い、建設派遣に応募、転職 建設業では派遣社員の賃金も上昇している。
「マッチングアプリに年収を堂々と書けるようになった」と誇らしげに語るのは、元保育士の戸井口一矢氏(35歳)。未経験のまま建設派遣(建設業に特化した派遣会社)に転職して技術者となり、年収を保育士時代の2倍超に増やした。戸井口氏は保育士やブライダル業界を経て、2016年8月に建設派遣大手の旧夢真(現オープンアップコンストラクション)へ入社した。
転職のきっかけは、稼ぎの良さと土日休みだった。「生活にゆとりができたからこそ、結婚にも踏み切れた」。アプリで出会った相手と25年7月に入籍し、注文住宅も購入した。
建設業界には「稼げる」との印象があり、できれば大手建設会社に入りたかった。ただし、資格も経験もなく、いきなり大手を狙うのは現実的ではない。そんなことを考えていたとき、求人広告で旧夢真のことを知った。
未経験者を社員として雇用し、建設技術者として教育してから現場に派遣する。確かに研修制度が充実していることを知り、「派遣でも未経験から入れるのなら」と応募を決めた。入社当初に苦労したのは、現場で飛び交う専門用語の数々。
理解できない言葉をネットで一つ一つ調べ、仕事を覚えていった。26年1月の取材時、戸井口氏はマンション建設現場で、所長を支える次席を務めていた。工程管理は、図面を確認して工程表を作成するところから始まる。
実際に工事が始まれば、資材搬入の遅れなどで、前後の工程にずれが生じることもある。その都度段取りを組み替え、工期と安全の両方を守る。戸井口氏は、「図面を見ながら完成形を想像するのが何より楽しい。
完成した建物を街で見つけると、これをつくったんだよと家族に話せるのが何よりのやりがいだ」と胸を張る。AFLO 保育士やブライダル業界で培ったコミュニケーションスキルが生きる 保育士やブライダル業界で働いた経験も生きている。現場で職人に接するときにはいきなり業務の話に入らず、仕事以外の話題から入って距離を縮める。
そうやって相手の置かれた状況を察し、仕事が滞らないよう先回りして段取りを組む。「建設現場の仕事とのと体力勝負との印象が強いが、実際は調整や説明が多い。話すのが好きな人にも向いている」と強調する。
現場によって差はあるが、午後6時台に業務を終えることもある。前職では土日に働くことも多かったが、転職後は土日休みが基本になり、休日には趣味のテニス大会にも参加できるようになった。未経験者が現場で戸惑わないよう、全国にある研修拠点で事前にハーネスの装着など基本動作を体験させ、慣れさせる。
派遣後は専任担当者による定期的な電話や現場訪問で、悩みや不安を吸い上げる。戸井口氏は、新しく着任した担当者と最初に1時間、たっぷりと話したと振り返る。こうして育った派遣技術者は、建設会社にとって欠かせない戦力になりつつある。
特に施工管理では人材が足りず、仕事を受けられないケースもある。未経験から入った戸井口氏だが、今では派遣先の新人技術者を教えることもある。未経験者を採用、育成する傾向にシフトする建設派遣 リクルートが公表した24年度の転職市場に関する報告書によると、施工管理者の求人数は7年前の約6倍に達した。
未経験者向けの求人の方が伸びていて、約11倍だ。経験者だけで現場を支えるのが難しくなり、未経験者を育てる動きが拡大している。オープンアップコンストラクションの親会社であるオープンアップグループは、建設技術者の不足を追い風に、近年事業を拡大してきた。
旧夢真が建設技術者の派遣を始めたのが1991年。未経験者の派遣に軸足を移したのは、東日本大震災の復興工事などで建設業の人手不足が強まった2013年ごろだ。経験者だけでは現場の需要に応えきれなくなった。
25年春の取材時点で、同グループの建設系の派遣人材の約8割を未経験者が占めていた。人材の供給力を高める方法としてM&A(合併・買収)も活用する。24年には同業のアイアール(名古屋市)を傘下に収め、建設技術者は約9000人に達した。
AFLO 人生の再チャレンジに挑みたい人が頑張れるのが建設派遣の魅力 戸井口氏のように未経験者を研修で育て、現場へ送り出すモデルが成長を支える。未経験の建設派遣技術者の中には、飲食業やサービス業からの転職に加え、無職だった人もいる。25年春の取材当時、オープンアップグループ執行役員だった吉井栄伸氏は「人生の再チャレンジに挑みたい人が、新しい業界で心機一転、頑張れるのが建設派遣との仕事の良さだ」と話した。
派遣先への転職は会社にとって戦力ダウンにつながるが、本人の希望やキャリアアップをかなえるため、できるだけ要望に応える。戸井口氏には所長を目指したい気持ちがあるものの、派遣社員のままでは難しい。将来のステップアップのために転職も視野に入れる。
「目の前にある現場で経験を積んでいけば、企業から『来てほしい』と言われるぐらいの技術力を付けられる」と考えている。
K.Yamaguchi--JT