Goldpreis
39.3000
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」で徳川家康を演じる松下洸平が、1年半に及ぶ撮影と役作り、共演者との現場を振り返った。
終盤を迎えたNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」で徳川家康を演じる松下洸平は、従来の冷徹な天下人像だけでなく、軽妙さと過去の重さを併せ持つ人物として家康を表現してきた。報道各社の合同取材で、撮影を通じて見いだした役への向き合い方や、織田信長役の小栗旬、豊臣秀長役の仲野太賀らとの共演について語った。
松下が現場で特に強い印象を受けたのは小栗の存在だった。普段はせりふが出なくなることはほとんどないが、信長として鋭い視線を向けられると頭が真っ白になったという。第15回「姉川大合戦」では、膝立ちで信長を見上げた瞬間に圧倒され、「徳川家康、ただいま参上いたしました」という自分の名を含むせりふさえ一時出なくなった。小栗が提示する芝居の流れに乗ることで場面が成立したと感じている。
一方、控室や私生活での小栗は穏やかで、出演者が自然に付いていきたいと思える人物だったという。松下は、信長役の威圧感と本人の柔らかさの落差も含め、小栗が作品全体を支える存在だったと振り返った。
本作の家康は飄々として腹の内を見せず、コミカルな面も持つ。ただし松下は、人質時代や妻子を自ら死なせなければならなかった過去など、史実上の苦しみを意識して演じた。単純な敵役ではなく、完全には憎み切れない人物として視聴者に届くことを目指したという。
豊臣秀吉と秀長の兄弟は、家康の人生でそれまで出会わなかった型の人間だったと松下は捉える。家康にとって扱いにくく、戦い方に迷うほど魅力的な相手であり、最終的には秀吉を深く尊敬していたのではないかと考えている。
第5回で家康が口にした言葉が第41回で再び登場する構成には、大河ドラマならではの長い時間の積み重ねを感じた。第5回の撮影時は現場に慣れておらず、馬に乗りながら仲野や池松壮亮を前に緊張していたため、後の回につながると知っていれば、もっと格好よく言いたかったと冗談交じりに話した。1年半を通じ、過去の場面から未来へせりふが渡されていく過程を視聴者と共有できることを喜んだ。
第41回で秀長と向き合って酒を酌み交わす場面では、序盤に余裕を保つ家康が、予想外の言葉を返されるにつれて動揺し、最後には兄弟の熱意に押される変化を段階的に作った。仲野が台本を読み込み、二人で場面を組み立てたことで、家康が追い詰められていく流れが自然に生まれたという。「一番好きな言葉」を問われて家康が薬草集めと答える部分には、人物の愛嬌も感じた。
家康が豊臣への臣従を誓う場面について、松下はその時点では本心から誓っていると解釈している。ただし豊臣側には家康のもとを去った重臣・石川数正がおり、支配下に入っても家康自身の野望が完全に消えたわけではないとの見方も示した。
当初、松下は家康にクールで内面を読ませない印象を持っていた。実際の脚本では意外にコミカルな人物となったが、それが過去の作品にはない道筋につながったと受け止めている。同時に、天下人としての残酷さなど、今回描き切れなかった側面も演じてみたかったという。過去の徳川家康役では役所広司の芝居を見直し、人物解釈の模倣ではなく、時代劇における立ち居振る舞いを学んだ。
晩年の家康にある大柄なイメージについては、撮影終盤から体形を変えるのは難しいとして、教科書の肖像に近づいていく秀吉と秀長にその役目を託し、自分は自分の家康を貫くとした。
石川数正役の迫田孝也については、どの芝居も受け止めてくれる相手であり、迫田なしでは自身の家康は成立しなかったと語った。家康がふざけても数正が受け止めることで二人の均衡が生まれた。豊臣兄弟と対になる組として、意識的に正反対の空気を作った。第41回の酒席は迫田の撮影終了と重なり、1年間の敬意と感謝をせりふに込めたという。
松下は、作品を通して多くの俳優と芝居ができたことを、大河ならではの貴重な経験と位置づけた。主演の仲野と池松は、長期撮影で成長しながらも、芝居への姿勢や現場での振る舞いという本質は開始時から変わらなかった。時折現場に加わり二人を見守る立場だった松下は、その一貫性から多くを学び、自身も役として確かな痕跡を残す必要を感じていたと振り返った。
今回の家康は、軽さを出すだけでは人物の底にある痛みが消え、重くし過ぎれば豊臣兄弟と対照をなす面白さが失われる。松下は、本心を見せ過ぎない表情や間を保ちながら、過去を背負った人物であることがにじむよう調整した。
長期撮影では、序盤に抱いた緊張や共演者との距離が後半の芝居へ蓄積された。松下は主演二人ほど常に現場にいたわけではないが、時折参加する立場だからこそ、仲野と池松が開始時から守ってきた姿勢を客観的に見られたという。多数の俳優の芝居を受け、最後まで作品に関われたことを今後にも残る経験と位置づけた。
信長に圧倒されて自分の名を言えなくなった序盤から、秀長との対話で余裕を崩される終盤まで、家康は相手役の力を受けて姿を変える。松下の話からは、史実の天下人を一人で完成させるのではなく、信長、秀吉、秀長、数正との関係の中で立ち上げた役であることがうかがえる。
松下は、誰か一人の歴代家康像へ寄せる方法を選ばなかった。役所広司の演技から時代劇の身体表現を学びつつ、脚本が持つ軽妙さを生かし、現在の共演者との反応から今回だけの人物を作った。晩年の体形など外見上の定型よりも、撮影の中で積み上がった関係性を優先した。
M.Saito--JT